現人神と1+1=2

 

 ちょっと質問するがな。誰でも良いや。(一番前の生徒を指し) お前立って御覧。

数学の質問する訳じゃないから、心配しなくって良いんだよ。(笑声)

今、お前が廊下を歩いてたとする。そこで先生とすれ違った時に、ちょっとこっちに来いって言われて、戸棚の蔭に連れて行かれる。

何? 変態? (笑声) 残念だろうが、先生にゃその気はないよ。お気の毒さま。(笑声)

 

 そこで先生の言うことには

「お前、びっくりするなよ。これは絶対に秘密だぞ。誰にも言っちゃいけないぞ。約束するな。じゃあ、教えてやろう。実はな。1+1は2になるんだ。」(笑声)

てなこと言われたら、お前どう思う?

え? 気が狂った。(笑声)

誰がだよ。お前がか? (笑声)

何だって? この学校で気が狂いそうなのは、先生しかいねえって? (笑声)

まあとにかく、先生どうかしたなって思うだろうな。座って良いよ。

 

 所でこれに似たことがあったそうだ。

もう死んじゃった人だが、山本七平って人がいた。日米戦中に軍隊に引っ張り出されて、フィリッピンのジャングルで飢え死にするような目に会ったが、なんとか生きてるうちに敗戦。

アメリカ軍に降参して捕虜にされ、幸いに英語が出来たので、通訳になったとのことだ。

この山本七平の話だが、ある日にアメリカ軍の将校に呼ばれた。なんて言われたかって言うとな。

「山本。びっくりするなよ。いい事教えてやろう。人間は大昔は猿だったんだ。」(笑声)

山本七平、なんて言っていいか困っちゃったが、日本じゃそんな事は子供でも知ってると言ったら「びっくりするなよ」なんて言ってた、そのアメリカ軍の将校が、反対に大びっくりした。(笑声) 

そうして、日本人というのは進化論を理解してるのに、現人神(あらひとがみ・生きている神様の意)として天皇陛下を尊敬してるのかと言ったそうだが、本音と建前の違いだな。

 

 実はアメリカもそうだったんだ。

戦前戦中の日本は良くない。アメリカのように民主主義、自由主義で無けりゃならない。

なーんて口には言っていても、やることは独断専制主義、日本の内閣も議会もみんなお飾りで、すべて、蔭でGHQ(アメリカ軍司令部)が仕切る。

新聞も雑誌も検閲され、アメリカにとって良くない所は削除。

でも「□□□で□□□が□□□□」なんてやったら、通らない。読者にとって削除されているという印象を与えてはいけない。

手紙も全部検閲された。封書は下を切って中を読み、それを戻してから検閲済みのセロテープで封をする。戦争中、幾ら酷かったとは言え、軍隊だってこんな事はしなかった。

この他、戦争の放棄を憲法に入れさせときながら、朝鮮戦争の時には実質上の軍隊である警察予備隊(今の自衛隊の全身)を作らせたりナ。

 

 所で、イラクなんかじゃ、アメリカは手を焼いてるが、日本人てえのは昔から「長い物には巻かれろ主義」で、上から圧力がかかると、ぺえこらしてる意気地なしばかりだ。

江戸時代は徳川将軍、明治以後は現人神天皇、日米戦に負けりゃアメリカにへっつくばってる。

教室でも、学業の権威である先生にへっつくばってるなら良いけれど、(笑声) 時々、不貞腐れて悪たれるワルガキが出るのは困りものだ。

そんな奴は日本人じゃ無いんだから、トランクに押し込んでイラクにでも送っちゃった方がいいな。

 

 何? 突然変異? (笑声)

成る程な。でも、どうせ突然変異なら、放課後、職員室に来て先生の肩を揉むのが生き甲斐ってのが良いな。(笑声)

誰か一人くらい、そういうのに成らないか。(笑声)

 

<脱線千一夜 第176話>  


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